茨木

街の噂では、九条の羅城門に夜ともなれば鬼が出るという。綱は、鎧兜に身を固め、重代の太刀をはいて、従者も連れずに唯一騎、羅城門に向かった。羅城門に進み寄り、石段を上がると、たずさえてきた証拠の高札を取り出して段上に立て、しばらく様子を窺う。
突然後ろより兜の錣をつかむ者がある。すわや鬼神推参なりと太刀を引抜き、兜の緒を引きちぎって石段をとび降りる。茨木童子は手に残った兜を投げ捨てて綱を睨んだ。その物凄さは たとえようがなく、両眼はランランとして日月のようであった。綱は少しも恐れず、太刀をふるって切りつける。
 格闘が続き、やがて童子が組みつこうと両手を拡げて飛びかかる。綱は一瞬隙ありと太刀を横に払えば、童子の片手がどさりと切り落とされた。童子はすかさず脇築地に飛び上がる。なおも追わんとすれば、俄かに黒雲が童子を覆い、綱は遂に童子を見失ってしまった。綱は、切り落とした松の木のような腕を我が館に持ち帰った。
 綱が鬼神の腕を切り取ったという事は、都中の評判になった。陰陽師は、七日のうちに鬼は必ず腕を取り返しにくるという。そこで綱は腕を唐櫃の中に納め、門を閉じて舘に籠り、仁王経の読経を続けていた。
 満願の七日日の夜、門戸をホトホト敲く音がする。綱が今夜は訳あって誰にも会えぬと言うと、婦人の声で「妾はお前の叔母の真柴である。久方ぶり摂津の国よりお前の顔を見たくて訪ねてきた」と言う。綱は、たとえ叔母でも今夜は満願の夜だから、あす出直してほしいと断った。叔母は「何という薄情なことをいうのか。お前は幼い時、夏の暑い日は扇の風で凌がせた。厳冬の寒い夜は衾を重ねて暖めた。あれ程 可愛がって育ててやったのに」と涙声。立ち去る気配もない。
 情に脆い綱は、門戸を開けて叔母を招じ入れる。叔母は「近頃お前は鬼の腕を打ち取ったとかで、世間では大変な噂じゃ。妾は年寄り。冥土の土産に鬼の腕とやらを見せておくれ」と強いて綱に望んだ。綱はやむなく唐櫃から腕を取り出し手渡すと、その腕をしげしげと見つめていた叔母は、たちまち変化の本性を現し、いつしか物凄い悪鬼の形相となった。綱は大いに驚きながらも太刀を抜き、ハッシとばかりに切りかかる。が、鬼面恐しい茨木童子は、一陣の烈風を巻き起し、屋根を突き破って何処かへ飛び去ってしまった。


提供:魂の躍動 konishi様

亀山神楽団

~和を以て神楽・仲間と向き合う~ 広島市安佐北区を中心に活動する神楽団です。

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